物語
ようこそ”世界へ”
――それは誰かの物語。
誰かの目指した夢の果て。
少年が居た。
狂人とも聖人とも呼ばれるような少年だった。
昔々、運命に巻き込まれた少年だった。
昔々、運命に選ばれた少年だった。
少年は生き残り――そして―― (公式より)
得難い日常を享受していた。
優しい父親、小憎らしい妹、よく理解してくれている幼馴染。下らない会話を交わす友達。後輩。クラスメイト。何処にでもあるような日々を。
だがそれが偽りであると知ってしまったのなら、それは悪夢でしかなくなる。
独善的な願いが誰かを救い、世界を楽園としているのは事実だ。
それでも。
意味のない永遠よりも、意味のある終わりを求める。誰を敵に回しても。誰を犠牲にしようとも。自身の願いのために、ただ独善的に。
総評
SF、終末セカイもの。ただそれ以上に、幼馴染ものであるこの作品。
シナリオ、音楽、システム、どれも商業作品にけして劣らないフリーゲーム。
スチル数が半端なく多い。200枚以上はあり、表情差も多い。
背景も高水準であり、書き込まれている。これだけでもうお金を払いたくなる。
序盤は何でもない日常。人によっては冗長に感じるであろうが、幼馴染である彼方との互いを分かり合っている距離感が。友人である浅一との下らない会話が。後になればなるほど貴重で、理想で、代えがたいものであったのだと強く感じる。
中盤からは世界の真実、在り方についての知り、主人公である睦月と親友である浅一との対比も描かれ方が良かった。
どれだけ不器用でも、歪でも、間違っているとしても、自分の願いのためにしか動けない人間である睦月。どこか狂気的でもある。だから、認められないということに少しでも天秤が傾けば、誰よりも永遠の世界を望み、幸福を望んでいたとしても、世界を壊す決断を下せる。
対する浅一はどこまでも普通だ。普通だからこその悩みや葛藤もあり、普通だからこそ最後に示したらしくない行動が眩しく思える。睦月に欠けているものを持っていたもう一人の主人公だった。
両者の似て非なる意地の貫き方が印象的だった。
そして何よりも。幼馴染である彼方のそばにいたいという想いの健気なまでの献身。これに尽きる。幼馴染であるから気づいてしまった真実もあったが。どこまでも彼方のことを想って。理解しているから悪役にもなれてしまう。最初から、最期まで。
嫌いなキャラクターもあまりなく、それぞれの願いが感じられた世界だった。それは悪役であったとしも。たとえ理解や共感は難しくとも。
ED曲もあり、読後の余韻も感じられる。
クリア後にはあとがきも解放され、制作側の思いも知れる。こういうものが知れるのは個人的にかなり好き。
商業作品に劣らないクオリティの良作、傑作にも時として出会えるから、フリーゲームも捨てたものではない。