あらすじ
とある過去により青春の一時をモノクロに過ごしてきた主人公、片桐白亜。
桜の花が咲く季節、大学生となり、始まる新しい生活。――そして、新しい人との出会い。
「青春を取り戻しに行きましょう」
その言葉をきっかけに、ずっと留めていた瞬間が動き出す。
もう一度、青春。その1ページを描いていこう―― (公式より抜粋)
アメリア√
飛び級で大学に入学、持ち前の明るさでみんなを引っ張る。
けれど、どこか無理をしていることもあった。
だから頼って欲しかった。成長して欲しかった。
夏休み中に体験した様々な出会いや経験により、順調に仲を深め、互いに成長しているように思えていた。
二人で夏を過ごす中、アメリアは自身の歪みを気づいてもいた。
周りと違うからこそ起こる認識の違い。
両親を亡くした時に自信にかけた呪いのような言葉が歪みを生み、白亜に向ける感情の違いにも気づいていた。
白亜もまた歪みを抱えていて、理想を押し付け合っていただけだった。
二人の歪みは簡単には消えはしないだろう。
同じ痛みを抱えているからこそ、痛みを分かち合うことができる。
多くのものを得て、失ってしまったからこそ得た尊い夢。
そしていつか、本当の意味で一緒に。
アメリアは表情差のときにアホ毛の角度が違ったりと感情がアホ毛で表されていたりもして面白かった。
またこの√では共通√からひときわ存在感を放つ金城先輩やアメリアの世界を広げる篠原という友人のサブキャラがいい味を出していた。
琴音√
始めて聴いた時から、心を暖かくしてくれる音だと思った。
最初はただの憧れだった。
けれど、琴音が周りに築く壁を壊したいと思うようになっていった。
他人と関係を築く。
それは簡単なようでいて難しいこと。
その弱さを克服しないと生きていくことはできない。
家族に抱く後悔による不和。
変わってしまったものは元通りということにはならない。
それでも本音を言葉で、そして音楽で伝え合うことで昔に少しでも近づくことができた。
酔って周りに絡んだりだとか、料理ができずドジを踏むところ等魅力的だったりする琴音。
でも……。
なんで妹の風音√ないのかな!?
サブキャラなのにちゃんとした立ち絵もあるのに!
もしシナリオ加筆修正してリメイクとかあるんだったらぜひともヒロイン昇格お願いしたい!
七瀬√
七瀬にとっては本の中の世界に日常を求め、普段感じる世界こそが非日常だった。
過去の因習に縛られた世界を変えるためには、自分の物語を自分で描かなければならない。
ただ他人の物語に登場する人物であってはならない。
主人公でないと、ならないのだ。
その一歩を踏み出すだけで、あっけなく世界は変わった。
七瀬が物語を描き始めたとき、白亜もまた止まっていた物語を描きだせるように。
このなんでもない日常中で。
好意を自覚するまでが長いけれど、自覚してからの行動力は早い。
ただの軽薄な男友達だった智明の印象が少し変わる物語でもあった。
いつき√
どんなときでも幽霊探しありき。
会った時には毒舌の憎まれ口ばかり。
なんでも言い合える、悪友のような仲だった。
一緒にいるとしっくりきて、心地よい。
幽霊を探し続けるいつきと分かり合うためには、いつきのことをもっとよく知るためには、いつきと同じく幽霊の存在を信じられるようにならなければならない。
それが存外に難しく、複雑にこじれてしまう。
白亜が自身の気持ちにようやく気が付き行動したとき、探していた霊にめぐり逢う。
そして過去の呪縛を捨て未来を見始めることができるようになった。
この√が一番白亜の鈍感さが発揮される。
プレイしていて、俯瞰している身からすれば好意を寄せられているのがまるわかりなのに少しも気づかない。
幽霊に関するスタンスの違いについても、好意についても、いつだって気づくのは手遅れになってからなんだなと思ってしまう、√中盤だった…。
LILAC(トゥルー)
場面は五年前、中学時代。
好きと言ってくれた少女と出会い、付き合い、お互いを知っていって。
そして大事なことを何一つ言えず失ってしまった記憶。
アメリア、琴音、七瀬、いつきと出会い、皆それぞれ過去に由来する因縁を持っていて、それを白亜をきっかけに乗り越え、もしくは封じ込めた。
みんなとの出会いをきっかけに過去を忘れ、新しい青春を送ることで、変われたと思っていた。
けれど、どうしても忘れることなんてできなかった。
本当の意味で失った五年間の青春を取り戻すために。
今度こそ伝えられなかった言葉を伝えるために。
死を受け入れ、認める。言い換えればもう一度自分の中で殺す、という儀式を行う。
その先にある未来を見据えて。
総評
過去を忘れることと、過去を忘れないこと。
「私を見て」「私を忘れて」と。
この二つのことを常に問いかけられ続ける。
過去を忘れることで未来へと一歩を踏み出せることと、過去を忘れなかったからこそ得られたもの、その両方があった。
一歩を踏み出すためのきっかけも、過去にかけられ忘れられなかった言葉によってだった。
物語においては考えさせられるものもあり、良かった。
序盤はギャグも多く、選択肢が少し多めだけれど、遊び心のある選択肢が好きだった。
音楽は楽曲数が多いことは多かったけれど、普通だったかと。さすがに終盤の別れの場面で流れる音楽、ライラックを見つけたらは良かった。
だが、不満や不便だと感じる部分も少なくはなかった。
それを挙げていこう。
まず一つ目。
この作品は行く場所を選びヒロインとのイベントとなるわけだが、どの場所に行けばどのヒロインのイベントになるかがわかりにくい。
見ることを逃したら√に入れないだろう重要なイベントも多々あることから不便に感じた。
場所にヒロインアイコンがついてたりしたら分かりやすいのにと思った。
(画像はMAP選択画面。この場合は河原に行くか大学に行くか選べる。)
二つ目は背景。
同人作品だからある程度は仕方ないけれど、白亜の実家の場面。
客間の畳や掛け軸のあるから自室へ場面転換したと思ったら全く同じ背景。
「わあ、ここが白亜くんの部屋……」
「すごく、綺麗です」
「まあ、掃除はしたからね」
っていう会話がなされたけど、内心失笑…。
実家の自室が出てくる場面自体数少なかったけれど、もうちょっとなんとかならなかったのかなと。
三つめは誤字脱字の多さ。
商業、同人含め大抵の場合はほんの少しの誤字くらい目を瞑るというか気にならないものだけれど、ちょっと気になってしまうくらいには多かったかなぁ…と。
あと最後に謎のカレー推し。要らない。
総じて、先に挙げた詰めの甘さもあるが、設定等作りこまれており、制作側のメッセージも感じられる良い作品だった。
全年齢であるから直接的なHシーンはないけれど、ほのめかす場面はところどころあり。
好きと、悲しさの両方を感じられ、良い読後感を得られる作品、おすすめ。