あらすじ
「崩壊」によって七割の土地が失われた世界。
世界崩壊前の記憶の一部を失っている少年エファは小さな島のガラクタの森で
「崩壊」によって沈んだ他の島からの漂着物を集めながら、
剣士の青年アリヴィオと共に穏やかな日々を過ごしていた。
エファはある日を境に、かつての親友だった「彼」との過去の記憶を取り戻していくが
(ノベコレHP内より)
感想
柔らかなタッチで描かれるこの作品。
このおかげで崩壊後の世界でありながらもほのぼのとした物語を連想させてしまうが、実際はそうではない。
序盤から、あるものを見つけたことをきっかけに少しずつ記憶を思い出していく。
記憶が欠けていても、同居人との穏やかな日々さえあればそれでいい—そう思っていた。
きらびやかな思い出ばかりではなく、失われた記憶はけして希望ではない。
崩壊前、たとえ不誠実であっても、正義に反することでも、多くの人にとって都合のいいことの方が正しかった世界。
多のために己を捧げる、そんな世界からは異物であろう価値観を認めたとき、それはもはや信念となりうる。
これは英雄という光に翻弄され、執着し、未来から目を背けていた二人が、確かな一歩を踏み出せるまでの物語。
神話のような奇跡は起こらない、積み重なった因果の上に成り立つ、あるがままの世界で。
ノベコレ内のコメントでもあった通り、映画を観終わったかのような感覚。
そうさせてくれるのはやはり音楽の力だろう。
微笑ましいやりとりの場面もあるのだが、過去の悲しい、やるせないような描写も多い。
暗いけれど、いつまでも聴いていたいと思わせてくれる音楽で没入感があった。
タイトル画面で流れる静かな音楽も象徴的だ。
なにせゲームを始める度に聴くことになるのだから。
ボイスのない作品では物語世界を形作る大きな要素は音楽だと、音楽が良い作品に出合うと再確認させられる。
エファとヴィオで交互に視点が変わることも良かった。
同じ場面が繰り返されることも少しあったが、その場面で実はどう思っていたかも知ることができた。
惜しいと思ったところは、このように現実的な背景と淡く表現されている背景が混在していること。これは同人作品ならば仕方ないことなのかも知れないが。
また、探索っぽい要素は要らなかったかと思う。
ただ読ませるだけのゲームに幅を持たせたかったのかも知れないが、頻繁に探索をするわけではなく、ヒントのオンオフもあるが何も難しいことはない。
中途半端な要素だと感じた。
ティラノフェスでは佳作。
だけれど十二分に面白い。
最近ではノベルゲームコレクション内の長編作品をメインにプレイしているわけだが、一般的なレビューや感想が少ない同人ではいつも手探り感が拭えない。
それだけに、素晴らしい作品に出合えたときは嬉しいものがある。