物語
物心がついたころから多忙の両親。家にいること自体が稀で、休日だろうと会社へ向かう。
そのため、礼と結愛の兄妹はいつも一緒だった。
それが日常であり、全てであった。
ある日、結愛に対して初めての嘘をついた。
一人にしてしまった。
そのことがきっかけとなり、元々心臓の弱かった結愛は体調を悪くする。
その日から、例え社会の枠から少しずつはみ出していくことを感じながらも、結愛のことだけを考えて生きていく。自身の所為で結愛が苦しんでいると罪の意識に苛まれながら。
結愛の容態は快復に向かうことはなく、悪化の一途を辿る。
兄妹どちらもが強く想う。
自身がいなくなったとしても、自分の人生を生きて欲しい。もう会えなくなるとしても。
生まれてきた意味、死ぬことの意味、そして何かを残すことを問う物語。
総評
物語の登場人物が最少人数が礼と結愛の二人だからこそ、濃密であり、かけがえないものとなっていた。
けれども、二人だけの閉じた世界ではなく、両親、学校の先生、担当医である司馬先生等多くの人に支えられていたんだということも感じられる。
特に司馬先生は無力さや歯痒さを吐露し、結愛と礼に対する真剣さが伝わってきた。
同人作品である本作、当然ながらボイスがないため、物語世界を表現するのは音楽である。
音楽の力を強く感じた。
一抹の不安、寂しさや悲しさ、そして力強さを。
誤字脱字等はそれほど見受けられなかったとは思う。
少しだけ不満というほどでもないが、欲を言えば、心配してくれている友達の一人や二人いてもよかったのではないかなと思ってしまった。
総じて、十分に人に勧められる作品。これだから同人作品は面白い。情報量が少ないため手探りになるけれど、満足のいく物語で魅せられたときの得難い充実感がある。
ただ自分自身はほぼシナリオ一点評価なため、その他の要素をあまり加味していないことを留意されたし。