物語
生体エネルギーオラクル。オラクルとは、人間が誰でも持っているオラクル回路から生み出される未知のエネルギー。通常、オラクル回路は目に見えない臓器として存在していたが、一部の超感覚に長けた人物にのみそれを知覚することが可能である。
オラクルを自在に操ることが出来るものをクオリアと呼び、現代の科学技術では成しえない現象を体現する。その一つが、オラクルを魔法粒子として実在化し、翼として組み替え、自由に空をはばたくことである。
しかし、飛行が一般化することはなかった。クオリアは、ごく少数であり、翼をごく短時間しか維持できない。
空を飛ぶ以外でのオラクルの活用も進められているが、一般化する日は果てしなく遠い。
そんな中、空を飛ぶという一点に特化して研究を推し進め、限定区域でのみ長時間翼を維持することができる設備の発明された。そして生まれた競技、天空の舞踏テレプシコーラ。その最前線であるのが物語の舞台である葛切学園である。
葛切学園のテレプシコーラ部は、第一と第二が存在し、この二つの存在は似て非なるもの。
第二の扱いは決して良くはなく、練習設備、時間、雑用の有無、試合の数や待遇。ありとあらゆる部分で区別される、徹底とした格差のある環境。
葛切学園に転校してきた、空に憧れる少女、彼杵柚(そのぎゆず)。第一の洗礼を受けてなお諦めない、悔しさをバネにひたむきに努力を続ける。
その姿は周りに確実に影響を及ぼしていく。
主人公である宝生歩は中等部の試合で大切なものを二つ失う。
オラクル回路の損傷。及び一部機能の障害。美しい空を飛ぶための翼を失った。
もう一つは、初恋の少女、紅の未来。
一緒に、自然な形で惹かれあっていた二人。クオリアとして空を飛ぶ適性がなくとも、テレプシコーラに魅了され、ダンスマカブル出場への夢を見る。歩、歩の妹玻璃(はり)、幼馴染の、有佐里亜(ありさりさ)の仲良し四人組で。
けれど、飛ぶ意味を見失ってしまった。
飛ぶ意味どころか、生きる意味まで。
テレプシコーラを学ぶ放浪生活を経て、高等部二年。
そして出会う。紅によく似た少女柚と。
この出会いに戸惑いながらも、別人だと、紅じゃあないと意識し接する。
そして迎える第一、第二への振り分け試験。妹である玻璃(はかり)は自ら第二へと降る。
第一ではできず、第二でないとできないこと。空を飛ぶことを楽しむこと。
歩も、触発され覚悟を決める。元々は玻璃のために蓄えた知識、経験だったが、柚に、里亜に、玻璃に、翼を与えるために。
この後、厳しい合宿、部内レギュラー選抜、親善試合と物語は展開する。
物語全体で第一と第二との歴然とした差を見せつけられる。努力が決して実を結ぶわけではない。それでもと、泥臭い根性を。本当に楽しむための努力を。
魔法粒子を操る技術は初心者のため拙いが、元々の身体能力は高くすさまじい成長速度を見せる柚。
オラクル量の少なさという欠点を抱えるが、自らにできること、できないことを把握し、全体を見通すことのできる里亜。
そして一年生ながらも並みの者には負けない加速とスピードを持つ玻璃。
この三人のチームの見せてくれる体験版最終盤の第一トップクラスのチームとの親善試合。この試合は面白く、柚たちのジャイアントキリングを、一人の観客となって応援してしまった。
恋愛よりも部活。恋愛よりも青春。登場人物数はかなり多いが、皆真剣にこのテレプシコーラというスポーツに真剣に打ち込んでいた。誰が欠けても成り立たない、そんな物語を。とても気分が良い青春物語を、期待。購入確定と。
最後に余談だが、蒼かなとの対比を。
初出の情報で蒼かなとの類似点が多いことに難色を示す人も多かったと思う。けれどパラレログラムは、蒼かなとはまた違う、純粋な青春物語である。
まず初めに同じスカイスポーツなわけだが、蒼かなは個人戦。パラレログラムは、3vs3のチームである。そこがまず違うため、単純な個人技よりも連携が合わさるため面白さが増す。
蒼かなのフライングサーカスは全く新しい既存の枠に収まらないスポーツ。そのためルールから覚え、展開も予測のつきにくいもので面白かった。
対してパラレログラムのテレプシコーラは、空で行うバスケットバールといったところで、理解がしやすかった。違うのはヘイローという特殊なボールを使用すること。少しだが魔法粒子を使った攻撃、防御が認められていること。このヘイローを扱う技術は要するに魔法粒子を操る技術に他ならない。パス一つとってもコツのようなものが要り、奥深く感じるスポーツだった。演出面はさすがに蒼かなには劣ると感じたけれど、決して劣っているとは思えない、競技としての面白さを感じた。これは3vs3という人数であることの選択肢、戦略の広さがあると思う。
そして次に主人公である宝生歩について。蒼かなの晶也とは違い、挫折の原因はケガでありもう空は飛べないところ。身体的な傷と心の傷といったところか。ある程度は受け入れ、妹の玻璃のため、指導するための経験を積む。ヒロインにより立ち直るわけではないということ。またコーチではなく監督という立場であることも違いの一つ。蒼かなの晶也のように逐一指示を飛ばすことはできない。練習の指示や試合の合間の指示等はもちろんできるのだが、ここらへんは既存のスポーツと似ている。
もちろんウグイスカグラらしい苦しみ、不協和音もすこしながら感じられたが、単純に部活青春物としての成長物語を大いに楽しみたいと思う。