物語
これは、命を問う物語。
「死にたい」と口にするだけで死ねる世界。
国際協和連合の下、『尊厳維持装置』という針状の爆弾が国民全員の脳内に埋め込まれ十数年が経った。
「死にたい」という声に反応し起爆するその爆弾により
人々は苦しまず、いつでも気軽に自殺を行えるようになった。
個々人の死ぬ権利が拡充された世界で、命とはなにかを模索する。
シスラギは同じ世界観を舞台にしたオムニバス形式。
それぞれのルートで全くジャンルが異なる物語群である。
オムニバスなのでどの順番からでも良いかも知れない。しかし、
A罪過の兎は手を伸ばす
B道化の電波時計は時を刻むのか
C不良の少女は愛を知らない
D彼岸の獣は言葉を喰んだ
この順での攻略推奨。
罪過の兎が導入であり、正道。尺も長いし序盤の世界観説明も事細かになっている。そして終盤明らかになる黒幕の存在、その思想。それを理解しているのとしていないのとではB~Dの物語の楽しめ方がまた変わってくる。
罪過の兎は手を伸ばす
この物語の主人公である日野原矜次は白兎と呼ばれるテロリスト。
尊厳維持装置と呼ばれる自決装置の停止。この爆弾の停止こそが目的。
方法は二通り。
停止コードと呼ばれる緊急停止プログラムのキーを入手し、それを作動させるか。
爆破不良者や政府による他者の強制自爆といった不良の確たる証拠を手に入れてそれを世に知らしめるか。
その最後の決戦となるかも知れない、そんな場面から物語は始まる。
そしてその前の語るべき物語。和泉冬伽が組織へ入る前の話。そして入る際の話。
死にたいと笑い、生きたいと泣いた少女の物語。
そして喪失、瓦解からの再起へと至る物語。
この物語はテロリストという視点であるため、アクション性のある展開。
舞台は近未来。単純な銃火器よりもオートマトン(自動人形)による戦闘が主となりつつある世界。そんな中、パワードスーツという強化外装を身に纏い一騎当千の活躍を見せる。
戦闘では無類の強さを誇る矜次。けれど心はけして強くはない。二つの地獄からよりマシな地獄へ。逃げてきたという自覚。迷いながら、誰かの理想についていくだけの、空っぽだという心。正しいかは分からない。それでも誰にも死んでほしくない。
ただ生きていて欲しい、大事な人が生きていてくれて良かった。簡単でいて難しい、エゴのようなこと。そのことを言えるようになるまで随分とかかった。
道化の電波時計は時を刻むのか
この物語の主人公は大企業阿賀野コーポレーションの社長金剛寺春人。
天上天下無為徒食、文化賢人だと豪語。独自の考えを持っており、尊厳維持装置にもどちらかと言えば肯定的。
そんな春人が出会うのは電波少女、女未子重音(めみこかさね)。この少女が放った一言。その一言から彼女を思い出し、世界は動き出す。
幽霊に憑りついた私と、幽霊が見える少女との出会い。
これは、私と彼女と彼女と彼女とぼくの物語。
普段通りの日常を過ごしながらも、不思議な言動をくり返す重音との交流も続いていく。
重音と巡った場所、その場所のどれもがあの人との思い出の場所だったことに気付いたとき、過去に追いつかれる。狂った先にある真実に。
ボクの望んだ結末の否定。
彼女の理想の体現、金剛寺春人としての結末を。
もう二度と間違わない為に。
君を幸せにする為に、弱いままで、過去を過去として背負う。
そしてその末に生まれた衝動。やりたいことをやる。この爆弾をぶっ潰す。
そう、これは八つ当たりだ!
C不良の少女は愛を知らない
この物語の主人公は世直し不良女子高生、但馬すみれ。
正義の味方へ憧れ、顔をマフラーで隠し、不良退治に励む。
通称マフラー小僧。
その行いは決して善行ではなく、やがては悪質な模倣犯も現れる。
そんな中出会うのは通称109機動隊、ナイン。独善は正義ではないと諭され、スカウトされ、大義名分を得ることになる。
その中で正しいこと、成すべきことを常に考えるようになる。
自らの目的とは?戦う必要とは?
漠然とした問いにはなかなか答えが出ない。
マフラー小僧を終わらせ、否定し、大切な友を失ってしまったとき。
分かり合えたはずの友のことを、最期のことを知りたいがために、駆ける。
答えを出すためにはまだ何も知り得ていないから。
D彼岸の獣は言葉を喰んだ
この物語の主人公は記憶喪失の少年、平河行衛。(ひらかわゆくえ)
両親がおらず、仲の良い友人もいない。喪失感に満ちた日々。
唯一付きまとってくるのは小説家でもあるという架々木稀生(かかききいき)。取材対象として興味深いのだという。
そんな中出会うのはどこか狂った美しさをもつ少女。逢沢遠恩(あいざわとおん)。後に連続殺人犯だとわかるが、それでも魅了されていく。
交流を続けていく内に分かってしまった自らの過去。
遠恩に殺されることを望むようになる。けれど殺してはくれなかった。
喪失感を埋めてくれる存在に。自らの世界の全てになった。
死にかけたときに気付く本当の自分。
片割れとも呼べる存在との別れ。その先に選ぶのは世界への反抗。
半身の遺した物語の続きを。
ケダモノからヒトへ、ヒトからぼくへ、ぼくからぼくへの進化の過程。
喪ったものを取り戻すぼくがぼくのままぼくになる、そんな話。
ぼくが語りだすまでの話。
総評
各編ジャンルが異なることがこんなにも面白く感じるとは思わなかった。
罪過の兎は手を伸ばすは十二分に燃えゲー。最終盤の戦闘シーンは主題歌が流れる演出もありで熱かった。
それ以降の物語も考えさせられる内容。命の価値を主題としているからこそ響く場面も多かった。
尊厳維持装置の死ぬ権利の拡充。それによる恩恵は大きい。時には論理立てて過剰な人口増加の歯止めとなったといった説明もされる。
望まれていないとしても、大勢的には正しくないとしても。それでも止めたい。迷ったとしても狂ったとしても、そういう感情を最後には貫いてしまう各編の主人公たちは読んでいて気持ちのいいものだった。
オムニバス形式の物語だが最後には一点に収束。役者が揃えられ、彼らであり続けるために世界を覆す。本当にいいところで終わってしまう。
オムニバスとして形の良いものなのかも知れないけれど、個人的には消化不良が残る。
各編の主要人物が協力し合う様が見たい。
矜次とすみれが共闘したり、また金剛寺のいじられや大言が聞きたい。稀生の立ち振る舞い等も気になる。
どうか続編が制作されて真の決着をつけてほしい。
エロゲで言うならファントムバレットが似たような終わりだったなぁと思い返したりも。
音楽はボーカル曲が多いのが嬉しいところ。
かっこいいOP曲としんみりするED曲。
フルで聴けないのが残念。
システム的には不満点多し。
オート速度が調整できないことと、バックログに人物名表示されず、遡れるのが少ないことが特に気になった。
罪過の兎の最終盤の戦闘、主題歌が流れるのは良かったが、リピート再生はされなかったのも不満。流れ終わった後無音でテキスト読んでいくのはなんか微妙に感じた。
しかしながら、夢中で読み進められるほど物語としての魅力があった。
価格は4編収録版で3240円。
DL限定特典付きの販売は10月12日(金)いっぱいまで!
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